紅月さんの創作場

バドミントン小説「FlyUp!」完結済。次回作開始時期は未定。
超長編を毎日ちまちまと書いていく創作日記です。

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2014.08.27 Wednesday
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    夜に煌く 15

    2005.07.26 Tuesday 22:46
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       俊治はゆっくりと目を開けた。最初は光源の眩しさによって目に痛みが走ったが、すぐに慣れると、完全に視界を開く。一目見ただけで病院だと分かった。そして自分の腕に包帯が巻かれている事も感触で分かる。俊治は体を起こして周囲を見回した。
      「気付いた?」
       横には美琴が座っていた。その後ろにあるベッドには昭英。その隣には隼人が眠っている。自分が置かれていた状況を思い出して、俊治は身震いする。
      「そうか……俺達……化け物に襲われて……」
      「うん。でも化け物はいなくなったよ」
       美琴の口調の中にある不自然な緊張に、俊治は気付かずその言葉自体にほっとして息を吐いた。ようやく緊張の糸が途切れたと言わんばかりに笑顔を見せる。
      「そうか! 良かったぁ……俺、いつの間にか気を失っちゃって……美琴さん大丈夫?」
      「あ……ええ! 大丈夫だよ。俊治君のおかげ」
      「俺の?」
       俊治が不思議そうに聞き返したが、美琴はその後は何も言わなかった。聞こうにも医師が突然部屋へと入ってきて面会時間の終わりを告げたのだ。時刻は午後十時。大学を出た時間から一時間以上経っている。
      「外傷による後遺症はないのですが、安静を取って今日だけ入院していってください」
       白衣に身を包んだ男が優しい口調で俊治と美琴に言う。昭英と隼人は意識がまだ戻っていないようだったが、とりあえず安心なのだろう。それ以前に医者に言われては反論できるはずもない。俊治は肯定の返事をするだけだった。
      「では、佐々木さん。退室してください」
      「はい」
       美琴は俊治に名残惜しそうな視線を送ったが、俊治はそれに気付かなかった。美琴は残念そうな顔をして部屋のドアを閉める。しかしちゃんとドアが閉まった後、俊治はベッドに寝ずに体を起こしたままにしていた。考え事をしているらしく、視線が中空に留まっている。
      「なんだったんだろう……」
       自分の両腕を眺めながら呟く。
       覚えているのは自分の意識が薄れるところ。そして度々体の中へと入ってくる熱い感覚。それに伴って体の底から湧きあがってくる衝動。
       コロセ
       コロセ……
       殺せ!
       こ・ろ・せ――!
      (怖い……自分が自分でなくなる……)
       俊治は震えの止まらぬ体を抑えていた。自分の内から生まれる破滅的な破壊衝動。
       徐々に甦っていく記憶。
       化け物を簡単に屠る自分の手。
      (―――!!)
       俊治は声にならない絶叫を上げた。 -----
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      夜に煌く 14

      2005.07.25 Monday 23:11
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        「探したよ。石原正嗣。まさか、始まりの場所に帰ってきているとはな」
        「君も、よく生きていたね……都築隆。二年前に君は死んだと聞かされていた」
         そこにいたのは俊治達の講座の教授である石原だった。無機質な感じのする部屋の中で静かに隆へと視線を向けている。自分の命が握られているにも関わらず、その態度は堂々としていて些細な動揺も見えない。
        「お前に聞きたい事がある」
        「わたしも聞きたい事があるな」
         隆はしばらく刀を突きつけていたが、やがて刀を下ろした。そして手近な椅子へと腰を降ろす。恵美華もその横へ椅子を持ってきて座った。
        「やけに大人しいんだな。お前を殺すかもしれないのに」
        「お前が憎んでいるのは『サクリファー』だ。わたしは確かに彼らを創ることに加担したが、わたしを殺しても仕方がないのは分かっているだろう」
         隆は返答しなかったが、その沈黙が肯定していることを示している。
        「ここに来たのは知りたいからか? 九条真司の行方を」
         その名前を聞いた隆から一瞬だけ殺気が洩れる。有り余るそれを抑えきれない様子からも九条という人物が隆に取っては重要な人物なのは明確だった。猛る怒りを抑えるのに必死な隆を横目に恵美華は質問した。
        「あなたがもう『プロジェクトアルト』に関係ないことは分かっています。ですから、あのプロジェクトの全てのデータを持っているはずの九条を見つけないと、『サクリファー』の犠牲が更に増えますよ」
        「わたしはもう何も手助けできない」
         石原は呟き、俯いた。全てを諦めた瞳は恵美華を失望させるには充分だった。
        「……自分の過ちを直視しようとしない、か。なら二度と日の目を見ようと思うな」
         隆はそう言って部屋から出て行った。その後を恵美華がついていく。しかし部屋を出る直前に振り返り、石原へと言った。
        「でも九条がここに来たら、あなたは殺されますよ?」
        「それも運命なら仕方がない」
        「……運命なんて言葉、嫌いです」
         恵美華は嫌悪感を隠そうともせずに言葉を吐き捨て、部屋を出て行った。一人残った部屋の中に流れるのは溜息。それによって空気の質が微妙に変わる。無機質な部屋は少しだけ色に染まった。
         後悔という色に。
        「過ちは繰り返される。しかし、それを止める手立ては既にわたしは持っていない。それが、何より……」
         石原は机に頭を抱えて突っ伏した。 -----
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        夜に煌く 13

        2005.07.23 Saturday 23:31
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           あれだけの死闘がいきなり終結してしまったことに美琴は呆気に取られていたが、我を取り戻すと俊治へと駆けていき、体を揺さぶった。
          「俊治君。起きて、俊治君!」
           美琴は心配していたが、俊治が眠っているかのように唸る様子を見て、どうやら無事だと分かると視界が急に暗くなる。安堵感から緊張の糸が切れたのだ。
          「よか――」
           美琴は俊治の上に寄りかかり、気絶した。

          「やけにあっさり引いたんだね」
           上月恵美華は前を歩く男へと不思議そうに言った。男がどれだけ『サクリファー』を嫌い、抹殺したがっているのを知っているだけに、その可能性があったさっきの相手をほぼ無傷で見逃すのは信じられなかった。
           ここに来たのも、自分の能力である『シーク』を使って『サクリファー』の居場所を突き止め、抹殺するためなのだから。
          「やっぱり一般人がいたから?」
          「違う」
           男はそう答えたきり何も言わずに目的地を目指して歩いていた。この大学に、この土地に来たもう一つの目的を果たすために。恵美華は自分の質問をはぐらかされた事に少しだけ不満を感じ、再び男へと問いかけた。
          「ねえ、隆。どうしてあの『サクリファー』候補を殺さなかったの? あの特殊能力は奴等の物とみて間違いないよ?」
           隆と呼ばれた男はしばらく無言のまま歩いたが、星陵大学の入り口へと辿り着いた時、口を開いた。
          「姉に似ていたのさ。あの女が」
           隆はそう言ったきりまた言葉を発さずに大学構内へと歩を進めた。その後ろを恵美華はついて行く。
          (……いつまで経ってもシスコンなのかしらね……)
           それも仕方のない話だと恵美華は思い、この話題を頭の中から消した。これからもう一つの目的を果たすためには余計な思考は厳禁。もしかしたら自分達は危険な場所へと足を踏み入れているのかもしれないのだから。
           しばらく階段を使って上がっていく二人。そして、最初から行く場所を分かっていたかのように明かりの点いている部屋へと歩みを進めた。隆はドアに身を寄せて集中する。中から聞こえる物音から、男が一人だけ残っていると察する。
           隆は恵美華に合図を送ると静かにドアを開け、中に入る。恵美華も続いて中へと入るとすでに隆は刀を中にいた人物へと突きつけていた。 -----
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          夜に煌く 12

          2005.07.22 Friday 22:40
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             突然背後に現れた男に美琴は声も出ない。しかし手に持った刀がまがい物などではなく、真に人を殺せる気配を発していることは分かった。
             夜の中に煌く一筋の光。そしてその光と共に美琴の横を通り過ぎていく男。
             向かう先には、俊治がいた。
            「やめ――」
             美琴が静止の声をかける前に、男へと俊治が駆け出していた。両手は肩幅に開かれ、走る勢いに逆らわずに後ろへと流されている。美琴には、俊治の両手に何か得たいの知れない物が宿っていると感じられた。
            「消えろ――」
            「『風林火山』」
             男の声は静かに呟いたような声だったが、美琴の耳にははっきりと入ってきた。その瞬間に俊治の周りに突如刃が現れ、四方から俊治を切り刻む。
            「いやっ!」
             美琴は飛び散る鮮血を見て意識が遠のきかける。しかしギリギリのところで自分の意識を保った。このまま気を失ってしまっては最悪の結果が待っている気がしたからだ。
             美琴の内心の動揺を他所に、俊治と男は激闘を展開していた。
             俊治の左手が突き出されると同時に炎が噴出し、男は躱しながら懐へと飛び込む。しかし振った刀は俊治の右手によって受け止められ、次いで出される右腕を男は飛びのいて躱す。互いに攻めきれずに間合いが開いた。
            「大した物だな……お前は『完全体』なのか、それとも『サクリファー』なのか……?」
             男は呟き、剣を肩へとかつぐように構える。両手で柄を握り、半身になって俊治に対した。一方の俊治は両手をだらりと下げ、自然体で立っている。
            「――ふぅ」
             男が静かに息を吐いた。そして男の周囲に圧倒的な圧力がかかる。重力が反転でもしているのか男の周囲のコンクリートが中空へと舞い上がる。男が危険な一撃を放とうとしていることは美琴にも良く分かった。
            (俊治君が死んじゃう!!)
             美琴は咄嗟に叫んでいた。
            「やめてぇえええ!!!」
             殺気の満ちた空間に響いた絶叫。その瞬間、男は構えを解いた。そして俊治もそのまとっていた異様な気配を消し、その場へと崩れ去る。何が起こったのかと美琴は思わず男のほうへと視線を向けると、男は刀を納めて歩き出していた。
            「あ――」
            「今夜の事は忘れろ。死ぬだけだ」
             先日、俊治へとかけたような台詞を美琴に言い、男はその場から瞬時に姿を消した。 -----
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            夜に煌く 11

            2005.07.20 Wednesday 17:32
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               前に。
               自分へと向かってくる化け物へ。
              「俊治君!」
               美琴の叫び。それは聞こえていたが俊治は歩みを止めなかった。体の奥から熱が生まれる。自分を突き動かす力が生まれる。その力は体の中のある一点から徐々に燃え広がり、体全体を包み込んでいく。
              (熱い。熱い。炎だ……炎が俺を包む……)
               化け物が俊治へと手をかざすと、風切り音と共に何かが俊治へと飛来した。しかし俊治は右腕を軽く振り、手で受け止めていた。
               それは針のように鋭く、硬い髪の毛だった。俊治はそれを道路に落として再び歩く。
               化け物は初めて動揺したような素振りを見せ、一歩後ろに後退する。俊治は更に前へ歩を進め、化け物のすぐ傍まで近づいていた。
               化け物は腕を振り上げ、俊治へと振り下ろす。美琴が遠くから見ても、その腕の振りは凄まじい威力が含まれていると予測できた。それが俊治へと届く直前に叫ぶ。
              「いやぁあ!」
               両手で目を塞ぐ美琴。しかし次にやってくるはずの破砕音が聞こえてこず、いぶかしんで両手を顔から離す。視界がとらえた光景は、美琴の理解を超えていた。
              「そんな……」
               俊治の左腕が化け物の腕を掴んでいた。振り下ろされた腕を片腕で捕まえていたのだ。更に驚くべき事は、俊治の左腕が炎に包まれ、掴んだ腕を伝って化け物にも燃え移っていった。化け物は苦悶の声を上げて俊治から離れようとするが、捕まえられているために身動きが取れない。そして手を離し、化け物の身体を駆け上った俊治は右腕で化け物の顔を掴む。
              「消えろ。永久(とこしえ)に」
               その声は俊治であって俊治でないと美琴は感じた。俊治の体を借りて誰かが話しているような錯覚を引き起こす。
              「灰となれっ!」
               俊治の叫びと共に、化け物の体が灰へと変化していく。俊治の左手から噴出している炎は勢いを増し、火柱を形成して空へと高く昇る。
               化け物は断末魔の叫びを上げてその姿を完全に消した。
               後に残る物は静寂。俊治の左手の炎も気づいた時には消えていて、美琴は夢だろうと思ったほどだ。しかし、現実だった。最もたちの悪い、現実。
              「お前は……」
               急に後ろから来た声に美琴は振り向いた。そこには刀を手に持った一人の男が立っていた。緋色の瞳を夜に光らせて――。 -----
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              夜に煌く 10

              2005.07.17 Sunday 21:49
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                「みんな! 逃げるぞ!!」
                 その言葉に最初に反応したのは隼人。隼人はその場に座り込んでいた昭英を起こして自転車に乗せる。自分も自転車に乗り、俊治の自転車のハンドルを持って併走させながら俊治の下へと走る。
                「俊治!」
                 隼人が自転車を離したと同時に閃光が走った。それは隼人の自転車の後輪を直撃し、隼人は宙に投げ出される。
                「隼人!」
                「大丈夫だ!!」
                 隼人は受身を取ってアスファルトを転がった。すぐさま立ち上がり、周囲に目を光らせると自分が持っていた荷物を見つけ、細長い筒のような袋を手に取った。
                「ここは俺が食い止める。お前達は逃げろ!」
                 隼人が袋から取り出したのは木刀だった。切っ先を化け物へと向けてその場に構える隼人。俊治と昭英は自転車に乗った状態で隼人を振り返った。
                「隼人! いくらお前でも――」
                「相手は人間じゃないんだぞ! お前の剣術でも――」
                「いいから――」
                 その瞬間だった。
                 隼人の体が俊治達の視界から消え、そこへ美琴の車に飛来してきた化け物が現れる。正確に言えば移動してきたのだ。そしてそこにいる隼人を弾き飛ばし、視線を俊治達へと向ける。その顔は二つに割れ、割れた中から細長い何かが伸びていた。
                (同じだ)
                 俊治は昨日の化け物の姿と目の前に立つ化け物の姿を重ねた。そしてそれは絶望感を胸に抱かせるには充分な物。一気に焦燥感が全身を駆け巡る。
                (古流剣術なんて実践的なもの習ってる隼人でさえ一瞬でやられた……なら、俺達がかなうはずない……)
                 残された道は逃げるしかないと、俊治が迷いなくペダルを踏み込んだ時、急に抵抗感が無くなり、道路に倒れた。
                「な、なん――」
                 俊治が見ると、自転車のペダルが消えていた。何らかの攻撃によって自転車本体から切り離されていたのだ。隣では同じように昭英の自転車も倒れ、昭英は上を向いたまま動かない。俊治は最悪の展開を予想したが、どうやら昭英は気を失っているだけらしい。
                「しゅ、俊治……君……」
                 後ろでは美琴が震えながら俊治にしがみついていた。その様子からしてもう腰が抜けて立つ事はできないだろう。これでは逃げる事さえも出来ない。
                (八方塞がりだ。もうどうしようもない)
                 俊治は美琴の手を丁寧に離して立ち上がった。内心では諦め、自分の目の前に広がる『死』を感じているが、体は意識と無関係に動いていた。 -----
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                夜に煌く 09

                2005.07.16 Saturday 22:44
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                   今年で四十五を迎えるためか頭髪に白髪が少し混じってはいるが体の肉付きもよく、肉体年齢は三十代であろう。俊治の驚き様に呆気に取られた顔をしている。
                  「い、いえ。何でもありません。俺、もう帰ります」
                  「ああ。ご苦労様」
                   俊治は自分の動揺を隠すために石原の横を早足で駆け抜けた。
                   去って行く俊治の後姿を見て石原は次に廊下の奥へと視線を向けた。そこは相変わらず電気が点かないまま。しかし石原の目には何かしらの思いが見える。
                  「……やはり、運命なのか……」
                   石原の言葉は先にある暗闇へと吸い込まれていくかのように空間へ消失した。

                  「みんなで帰るの? お疲れ様〜」
                   俊治達三人が山道を降りてから少し。後ろからきた車が横に止まり、美琴が窓から顔を出した。
                  「はい。お疲れ様です」
                   一番車側にいた俊治が返答する。
                  「送ってこうか? っていってもチャリかぁ」
                  「残念」
                   昭英が心底残念そうに美琴を見る。
                  「僕等はいいですから、美琴さんも気をつけて帰ってくださいね。最近ぶっそうですから」
                  「だーいじょうぶよ。わたしは車なんだから」
                   美琴はそう言って車を走らせた。しかし車が少ししか進まない時点で急に動きが止まる。その場にいる誰もが首を傾げた。
                   その時――
                  「何だ!?」
                   隼人が頭上を向いて叫ぶ。その叫び声に俊治と昭英は我に返り、同時に上を向いた。何かが飛来してくる。俊治達の下ではなく、美琴の車の下へ。
                  「美琴先輩!!」
                   俊治が走る。そして車から出てくる美琴。俊治が美琴の体を掴んで車から離れると同時に飛来物が美琴の車を押し潰した。弾け飛ぶ車の破片が辺りに散らばり、俊治達は破片を何とか掻い潜った。
                  「な……なんなんだよぉ」
                   昭英は涙ぐんで自分の目の前に広がる光景を見ていた。隼人も冷静に見てはいるが、やはり何か得たいの知れない力に体を震わせている。そして、最も事の恐ろしさを知っていたのは俊治だった。
                  (ま、さか……)
                   昼間に感じた殺気。予感が現実になる。しかしあまりに唐突な出来事に俊治は思考が混乱する事を抑えるのに必死だった。自分が抱きかかえている美琴の存在さえも忘れかける。だが俊治を恐慌の一歩手前で抑えていたのはその抱きかかえた美琴の微かな震えだったのだ。
                  「何なのよ……あれ……わたしの車……」
                   美琴は恐怖を覚えながらも、自分の車を失った事を残念と思うほどの余裕を持っていた。 -----
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                  夜に煌く 08

                  2005.07.13 Wednesday 23:19
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                     ふいに俊治の脳裏に昨日の光景が思い出された。人間の体に化け物の頭部。その頭部から感じた殺気。その殺気と先ほどの視線の気配は同じ感触だった。
                    (馬鹿な。化け物はあの男が殺したはずだろ。もう殺人事件は起きないんだ……でも、どうしてこんなに心配なんだ?)
                     俊治はどうしても嫌な予感を振り切ることができなかった。そしてそれは凄惨な事件として現実に起こる事となる。

                     講座の掃除は意外と時間がかかり、全ての整理が終わったときには時計の針は八時を指していた。流石に十月ともなるとこの時間には日が完全に落ちて暗い。星陵大学は少々山の中に存在しているために周りには明かりも少なく、寂しげな雰囲気が漂っている。
                    「……一日掃除に忙殺されたなぁ」
                     久坂隼人(くさかはやと)はモップにもたれかかってうんざりと言った口調でため息をついた。それに同意するように残りの四年生も頷く。
                    「ほんとに〜。俺達ってほんと雑用〜」
                     語尾をのんびりと伸ばしているのは同じ四年生の伊藤昭英(いとうあきひで)だ。髪の毛を刈り上げてさっぱりした頭を掻きながら欠伸をしている。
                    「仕方がないだろ。別に院生がなにもやってないって訳じゃないし」
                     俊治はそう言って最後のダンボール箱を棚の上に積み上げた。居並ぶダンボールは俊治の身長を越えて存在感を示す。最後の荷物を運び終えた事で俊治は腰を後ろに曲げて息を吐いた。
                    「……――っあああ〜。終わったぁ」
                    「じゃあ帰るか。もう少しで八時半だぜ」
                    「マジ? なら途中で夜飯食べて帰ろう」
                     隼人と昭英に同意して俊治は部屋を出た。まだ他の講座にも人は残っているために廊下の明かりは点いている。しかし廊下の一番奥だけは電気が消えていた。
                    「ん? 廊下の電気きれてんの?」
                     昭英がそちらの方を向いて言う。二人も続いて見たが、それ以外特に言うことはない。
                    「かまわず行こう。腹空いたよ」
                    「おーう」
                     昭英と隼人は今の話題を止めて荷物を取りに自分達の荷物がある部屋へ戻る。だが俊治はその場から何故か離れられなかった。得たいの知れない力に捕らえられているかのように。
                    (なんだ、ろ? 気になる)
                     俊治は呪縛から解けるとすぐに、その電気が消えている場所へと行こうとした。だが、後ろから急に声をかけられて動きを止めた。
                    「高町」
                    「――先生!?」
                     俊治の後ろに立っていたのは講座の教授である石原正嗣だった。 -----
                    夜に煌く | - | - | - | - |

                    夜に煌く 07

                    2005.07.11 Monday 22:37
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                       大学の講座というのは基本的に忙しい。自分が大学を卒業するための研究をする必要があるのに加え、大学の上の大学院に所属している生徒から下される手伝いの指令に否定は出来ない。
                      (四年は最上級生で、下っ端ってのは間違いないよな……)
                       俊治は過去に使ってから用途がなくなった資料が入ったダンボールをゴミ捨て場へと運んでいた。十月から大学の後期日程が始まることから、この最初の時に大掃除をしてしまおうというのだ。
                       俊治の他四年生は二人いるが、その二人もそれぞれ別の場所で掃除をしている。
                      「おい――しょっと」
                       ダンボールを積みあがっているゴミの山の上へと置く。他の講座も同じように考えているのか普段の三倍はあろうかというゴミがゴミ箱に入りきらず、その横に山を成している。その光景をうんざりした様子で俊治は見て、自分の講座へと足を向けた。
                      「終わったの? ご苦労様」
                       俊治にかけられた声は聴きなれた声だ。俊治の後ろのほうからかけられ、それと同時に走ってくる足音が聞こえる。
                      「美琴さん」
                       俊治に近寄ってきたのは化粧気が少なく、可憐さよりも闊達さが表れている女性だった。髪は肩ほどまで伸ばしていて、先は少し外側にはねている。幼そうに見える外見だが、俊治よりも一つ年上だ。
                       佐々木美琴(ささきみこと)。星陵大学大学院一年である。
                      「俊治君。この後は実験室の掃除を手伝ってあげて」
                      「えー。隼人達だけじゃ足りないんですか?」
                      「掃除には足りてるんだけど、ゴミが重すぎてね……」
                      「全く……使わなくなったならさっさと捨てればいいのに」
                       二人はとりとめもない会話をしながら歩みを進める。ふと、美琴は足を止めて辺りを見回した。
                      「どうしたんですか?」
                      「ううん……何か、誰かいたような」
                       美琴と共に俊治も周りを見回すが、特に怪しい者は見えない。
                      「おかしいなぁ」
                      「ま、気のせいですよ。行きましょう。急がないと隼人達に怒られます」
                       俊治は掃除の手伝いをするためにと美琴を急かして小走りに自分達の講座のある研究棟へと入った。美琴がトイレに行くと言って離れ、俊治はエレベーターに乗って六階にある講座を目指す。上昇を続ける四角い箱の中で、俊治は今さっき感じた視線がなんなのか考えていた。
                      (姿が見えなかったのに視線を感じた。一体何なんだ?) -----
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                      夜に煌く 06

                      2005.07.08 Friday 07:52
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                        「――それは確かか?」
                         力強く、しっかりとした男声が部屋の空気を震わせた。長い間使われていなかったためか湿っぽく、据えた匂いが声の主の鼻腔をくすぐるが、男はさして気にしている様子もない。
                         しかし声をかけられた人物はその匂いが嫌いなのか、顔をしかめながら答えた。
                        「うん。間違いないよ。奴等がここに来てる。私の知覚がそう言ってる」
                         長い髪を後ろで縛り、ポニーテールにしている女性だ。歳は十代後半。幼い雰囲気と大人びた雰囲気が同居しているような、奇妙な気配を持つ女性だった。目は少し大きめで、口は小さめ。少し童顔である事と歳相応の雰囲気がそのような気配を見せているのかもしれない。
                        「そうか」
                         男は女性の言葉を信頼しているのか、二度は聞き返さずに横に置いてある刀を取った。
                         鞘から抜かれた刀は少しの刃こぼれもなく、暗めの部屋の中でぼんやりと光っている。
                        「この刀にかけて、奴等を滅ぼす……」
                         軽い鞘鳴りを部屋に染み込ませ、刀を納めると男は立ち上がり部屋を出る。後ろに女性もゆっくりとついていく。
                        「どこだ? お前の『シーク』が感じる、奴等の居場所は?」
                        「大学だよ。星陵大学」
                         その大学は俊治が通う大学だった。 -----
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