紅月さんの創作場

バドミントン小説「FlyUp!」完結済。次回作開始時期は未定。
超長編を毎日ちまちまと書いていく創作日記です。

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2014.08.27 Wednesday
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    その1825

    2012.06.21 Thursday 21:47
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       一瞬だけ息をのんだ後にさらりと口にする。小島はこれまでの経験の中で早坂の中の思いを少しは掴んでいた。そして、正確にいつの頃か分からなかったが、早坂は武への思いを過去にするために必死のように見えた。だからこそ、自分の支えになってほしいとも思えたが、早坂自身は武の事を忘れるまでは誰とも付き合わないかもしれないと考えていたのだ。
       その考えは正しかったのだろう。そして、正しいならば、彼女の思いはもう完結したのだ。

      「今はもうふつうの友達、というか。仲間だよ。ダブルス組んではっきりした。私は、もう相沢にも由奈にも笑って、普通に過ごせるよ」

       由奈というのがおそらく武の彼女だろうと思い、特に口は挟まない。早坂は一度息を吐いてから小島に向けてしっかりとした口調で言った。

      「小島。私のこと、好きでいてくれてありがとう。これから、よろしくね」
      「……おお。お互い、切磋琢磨しようぜ」

       手を差し出すと早坂は苦笑しつつ握ってくる。普通の彼氏彼女っぽくないと呟いていた早坂に笑いながら告げる。

      「俺は、そうだな。一緒に競い会える人といたいんだよ。早坂に負けないようにって思えて、強くなれる人と。そんな人を引っ張りたい」
      「支え合うっていうよりは互いに引っ張り合う、か。小島らしいね」
      「おう」

       小島はベンチから立ち上がり、早坂をしっかりと視界に収める。改めて見ると、自分より小柄で華奢なのが分かった。試合でのカットドロップや体重を乗せたスマッシュを見ていれば体格も女子の中では大きい方と勘違いしそうだ。

      「一つ心配なことがあるんだ」

       早坂が節目がちに呟く。小島は一つ頷いてから続けるように促すと、早坂はためらった後で言う。

      「青森山城に誘われてるんだ。私。そして、そこに行きたいと思ってる」
      「高校からの話か。俺も札幌光明に行こうとしてるしな」

       お互いに高校でのインターハイ常連。学校が違うだけならまだしも、早坂にいたっては北海道からいなくなる。早坂が言いたいことが小島には理解できた。付き合うのは嬉しいが、遠距離恋愛になると。

      「できれば一緒にいたいけど。やっぱり、今は私、バドミントンを中心に考えたい。高校は越境入学して、バドミントンをしていきたい」
      「俺もだな。だからこそ、一緒に頑張っていこう」
      「いいの? 離れても」

       早坂の問いかけに小島は頷く。しっかりと一言添えて。

      「お前が好きだって言ってくれるだけで、十分さ」
      「……そっか」

       早坂は不意に立ち上がり、小島へと近づいていく。その動作があまりにスムーズだったため、小島は頬から唇が離れるまで自分が何をされたのか分からなかった。

      「うわっ!?」

       咄嗟に飛び退いて頬に手を当てる。まだ早坂の唇の感触が残っていて、顔が真っ赤に染まった。早坂を見ると、うつむき加減になって小島とも目をあわさないまま早口で言った。

      「お礼だよ。じゃ、また明日」

       そそくさと去っていく早坂の後ろ姿を見ながら小島は火照りが収まるのを待つ。疲れからくる弱さなのか、今日の早坂の弱々しさは守ってやりたいもの。小島が望んでいる強い早坂とはまた違った魅力がある。

      「よろしく、な」

       小島は立ち去った去った背中に届くように、小さく呟いた。

       全国での戦いを乗り切った全員がそれぞれの思いを抱きつつ、最後の夜を過ごしていった。
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      2014.08.27 Wednesday 21:47
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