紅月さんの創作場

バドミントン小説「FlyUp!」完結済。次回作開始時期は未定。
超長編を毎日ちまちまと書いていく創作日記です。

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2014.08.27 Wednesday
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    その1829

    2012.06.22 Friday 22:36
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       歩いていくと告げた時に、由奈は笑うことを堪え切れず噴き出した。意味が分からない武に由奈は「バドミントン終わっても運動したがりなんだね」と告げる。部活の後で疲れているにもかかわらず歩くのを迷うことなく選ぶところが体力をつけようとする――バドミントン馬鹿だと言っていた。

      「そっか。何故か気付かなかった」

       由奈に指摘されて初めて頭の中に「歩く」以外の選択肢がなかったことに気づく。間に合わなさそうなら数回速足を加えればいいと思うくらいだ。考えている間にも歩幅が大きくなっていたのか、速足で由奈が折ってくることに気づくとおペースを落として隣に並ばせた。

      「由奈もガット切れたんだな」
      「うん。実は全国大会前にも切れたから張り替えてもらったばかりなんだよ」
      「……全国で酷使してないのになんで切れたんだろうな」
      「もしかしたら武のガットを守ってくれてたかもよ?」

       試合の中でガットが切れることほど集中力が乱されることはない。慣れ親しんだラケットによるスマッシュスピードやタッチの感触。それは途中でリセットされれば立て直せないほどの衝撃あ。全道大会でも君長がラケットを途中で交換して精度を欠いたこともある。
       思い返せば、ラケットにガットを張りに行った時も由奈と共にだ。

      (確かに。由奈のおかげかもしれないな)

       非現実なことでも思えば力になる、かもしれない。武は今日までバドミントンをしてきて、何度か感じていた。無論それは自分が努力したことを土台にして生まれるのだが、積み重ねてきたものの上に、それ以上のなんらかの力が生まれる。思いは届くのだと自分で体現しただけに武は嬉しくなる。

      「そういえば、さっき。金田先輩達に強気で言ってたよね」

       さっきとはどの時かと思い返してみて、高校の先輩たちに負けない自信があると告げた時だろうとあたりをつける。そのことを告げると由奈は「うん」と大きく頷いて、先を続けた。

      「全国から帰ってきた人達はずいぶん印象が変わったんだけど、特に変わったのは武だよ」
      「俺はバドミントンの実力以外は何も変わってないと、思うけど」
      「凄く自信がついて、かっこよくなったな」

       ほんのり顔を赤くして言う由奈を見ると、火照って顔全体が赤くなり、武は前を向いた。視線が外れたことで自然と右手は由奈の左手を掴んでいる。指と指をからめて、恋人同士の繋ぎ方。

      「先週までの武は、強かったんだけどどこか頼りなかったっていうか。私にとっては十分強いんだけど、実力者の中にいたらどうかなって思うくらいだったんだ。でも、今は違う」

       そうかもしれない、と武は由奈には言わずに内心呟く。全国を勝ちぬいた時、武は自分の中に覚悟が生まれるのを自覚した。力がある者の責任。ない者がある者へと挑むのではなく、迎え撃つ。これから先に武と吉田を待っているのはそういう世界だ。
      FlyUp! | - | - | - | - |

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      2014.08.27 Wednesday 22:36
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